理学療法士の働く場所って限られているとはいえ、意外に多いのが事実。
なんとなく「こんなところがあるよなぁ」っていうのがあっても、実際に働いてみないとわからないことが多いですよね。
例えば、「回復期」での経験はあるけど「訪問リハビリ」での経験がない。
だから、「訪問リハビリって、だいたいこんな感じかなぁ」しかわかりません!みたいな。
働く場所を決める時にもっと情報があれば良くないですか?
事前にいろいろ知れるのなら、知りたいですよね!
そんな知りたいって願いを叶えるため、経験者の方にお願いして、教えてもらいました!
今回は30代の女性理学療法士の方に、「回復期病棟で働くメリット(魅力)、デメリット(大変さ)」を聞いてきました!
回復期病棟で働くメリット(魅力)、デメリット(大変さ)は何?
回復期病棟で働くことの魅力
回復期病棟では、急性期病院での治療を終え、自宅や社会に戻ってからの生活を少しでも元に近い状態に近づけるためのリハビリテーションを専門に行っています。
入院期間は最大180日(疾患・状態により異なる)、リハビリは1日最大3時間を行い、社会・在宅復帰を目指します。
回復期病棟では在宅・社会復帰を希望される患者さんが多く入院されています。
セラピストは自宅環境に合わせたオリジナルの動作訓練を行ったり、ご家族やコメディカルはもちろん、ケアマネージャーや退院後のサービス関係者などと協力して、早期の在宅・社会復帰を支援していきます。
チームで何かをする、成し遂げる、手を尽くすことで患者さん・ご家族の希望を叶えることができ、充実感や達成感が得られる経験をたくさん積めることは回復期病棟で働く大きな魅力です。
私が7年間勤務していた回復期病棟でも、社会・在宅復帰を強く希望される患者さんやご家族が多く入院されていました。
私の担当していたSさん。Sさんは90代後半の女性です。自宅内で転倒し、大腿骨転子部骨折を受傷し、急性期病院で手術をした後、リハビリのために当院へ入院されました。
Sさんは元々認知症があり、見当識や記憶力低下が重度ではありましたが、介護保険のサービスを利用し、なんとか一人で生活されていました。小柄でかわいらしい方ですが、意志は固い方です。
入院前の歩行状態は屋内伝い歩き、屋外小型シルバーカー歩行レベル。3人の娘様は遠方にお住まいで、時々飛行機に乗ってやってきて、数日泊まってSさんの身の回りの世話をしてくれます。
元々、変形性膝関節症で両膝に変形や痛みがあったSさん。骨折部の痛みはそれほどでもなかったのですが、両膝の痛みが強く、歩行練習がなかなか進みません。
加えて、認知症により、リハビリの必要性も伝わりづらく、私も頭を悩ませていました。
入院当初はご本人もご家族も自宅退院をご希望でしたが、今後も独居生活を行うことが果たして可能なのか…私をはじめ、医師や看護師、ソーシャルワーカーも不安しかありません。
Sさんの入院期間も2か月を過ぎました。回復期病棟では疾患により入院期間が定められています。そろそろ、次のことを考えて動かないといけません。
この時のSさんの状態は排泄軽介助レベル。歩行器歩行は見守りで5mほど可能、伝い歩きは3mほど可能、膝の痛みを強く訴え、跛行を伴いながら…痛みが強いのでリハビリにもあまり応じてくださらない、といった感じです。
Sさんの年齢、身体・認知機能、痛み、家族のサポート状況などを考え、私をはじめ、医師や看護師、ソーシャルワーカーも施設入所が妥当と考えました。その意見をご家族にお伝えする為、娘様とケアマネージャーを招いてカンファレンスを行うことになりました。
満場一致で施設転所に決まるだろうな…と考えていたところ、予想に反してSさんと娘様は自宅退院を強く希望!再転倒はもちろん、孤独死の可能性もあることなど、様々なリスクをお伝えしましたが、意見はかわらず、改めて自宅退院を目標に進んでいくこととなりました。
目標が自宅退院となったので、早急にSさんを連れて自宅訪問に行くことになりました。
自宅訪問では家屋の状態(段差や間取り)を確認し、実際に患者さんに退院後に想定される動作してもらいます。
入院中では把握できないような自宅内特有の動作やリスクに気づくことができ、より充実したリハビリ・日常生活動作練習を行うことにつながる為、当院では必須となっていました。
このとき、私は1年目のPTで、ある程度歩くことができる患者さんとしか住宅訪問に行ったことがなく、とにかく予想がつかない状態に不安しかない状況でした。先輩方に頼りきりだったと思います。
さて当日、Sさん、娘さん、私、OT、ソーシャルワーカー、ケアマネージャー、住宅改修業者、福祉用具レンタル業者がSさんの家に集まりました。
また、当院では訪問リハビリも行っていたため、訪問リハビリのスタッフも同行し、自宅での生活についてアドバイスをもらうことになりました。
Sさんの自宅は平屋の日本家屋でした。所々に段差があり、和室で食事と寝起きをするという生活スタイルです。
もちろん、Sさんは歩けませんので車椅子です。上がり框は自力で上がれず、2人で抱えて上りました。
生活動線は比較的狭く、5mほど歩けば、台所・トイレ・和室の移動はできます。さて、問題はどうやって移動するか…段差があり、間口も狭く、認知症のあるSさんが歩行器や歩行車を使いこなすことは難しいだろうと考え、歩行補助具は却下。
伝い歩きはなんとかできるのですが、痛みと跛行が強く転倒リスクが大きい。
手すりを設置しようにも間口の狭さやふすまになっているところもあり、一部絶対に途切れてしまうところがありました。それ以前に、認知症が重度の方なので、もう、Sさんの自宅での行動が全く予想できません。
教科書的には膝の変形や痛みがある方には、椅子に座る洋式生活をおすすめすることになっていますが、Sさんが生活スタイルの変化に順応していくことも想像できず。
このような状態を見ても、Sさんもご家族も自宅退院の気持ちは変わりませんでした。
聞けば、人生の最期まで、ご本人らしく、どんな状態でも自宅で過ごしてほしいという強い気持ちが娘様たちにあるとのことです。
そんなとき、Sさんがごく自然に、四つ這いで家の中を移動されました。試しに動作確認してみると、歩くよりは安全に移動できています。
変形性膝関節症なので四つ這いなんて余計痛みを増加させてしまうんじゃないかと心配していましたが、転倒の危険性がないという意味ではこれが一番安全なのかも。
心配した四つ這いからベッドや便器への乗り移りも手すりがあればできました。
話し合った結果、歩くことが予想される最低限の動線に手すりを設置することとし、伝い歩き練習を行っていく。
同時に、四つ這い練習や床からの立ち上がり練習も行ってみることにしました。
退院直後は通所系のサービスで食事や入浴を行い、安全に過ごして頂く時間を確保することはもちろん、安否や動作確認のために訪問系のサービスを毎日朝夕利用します。
その他、ベッドのレンタルと、夜間の排泄の為にポータブルトイレ購入を決めました。
また、当院の訪問リハビリも介入し、状況に応じて必要なリハビリや追加の住宅改修や福祉用具の検討をしてもらうことにしました。
自宅退院までの期間は、筋力訓練や伝い歩き練習に加え、床からの立ち上がり練習、四つ這い練習、いざり練習など、退院後に想定される動作訓練を中心に行いました。
大腿骨転子部骨折の術後、変形性膝関節症のある御年100歳近い方に、床からの立ち上がり練習を指導することなど、全く予想していませんでしたが、なんとかこなしてくださいました。
膝の痛みは相変わらずだったので、なかなかリハビリに応じてくださらない時もありました。
日常的に動いてもらいたいのと動作練習を兼ねて、病室のベッドや手すりの位置を自宅と同じようにし、トイレまで伝い歩きで移動してもらいました。
夜間は、購入予定のポータブルトイレを使用するようにして、Sさんに慣れてもらうことにしました。こんなときは病棟スタッフが頼りで、看護師や看護助手へ介助方法の指導を行い、問題があれば知らせてもらうよう、協力してもらいました。
1か月後、Sさんは自宅退院の運びとなりました。
Sさんのその後ですが、退院直後は四つ這いで移動することもあったそうですが、徐々に、下肢筋力がアップし、少しずつ伝い歩きで移動できるようになったとのこと。
一人暮らしなので、必要に迫られて自分で動かなければならないことが多かったようで、日常的に動くことが一番のリハビリになったようです。
一度、花の手入れをしようと、一人で外に出ていたことがあったそうで…関係者一同、肝を冷やしましたが、それほどまで良くなられるとは、入院中の姿からは想像できませんでした。
認知症が重度だから、100歳近いから、膝に痛みがあるから、家族が遠方だから…と医療関係者はリスクを考えがちですが、とにかく患者さんとご家族様に強い希望があったからこそ達成できた自宅退院でした。
一緒に携わったスタッフとは、一見自宅退院が難しい患者さんであっても「あのSさんが家に帰れたんだから大丈夫!」と、その後も合言葉になっています。
おかげでスタッフ間のチームワークもよくなり、日々の業務が一層楽しくなりました。
一人の患者さんに複数の医療専門職が連携して、治療やケアに当たることを「チーム医療」といい推進されています。
Sさんの自宅退院を通して、チーム医療の楽しさ・面白さ、嬉しいことも難しいことも共有できることの心強さなどを体感できました。
在宅・社会復帰を望むたくさんの患者さんに対し、チームでそのお手伝いができることが回復期病棟で働く魅力です。
回復期病棟で働く大変さ
先に書いた通り、回復期病棟は在宅・社会復帰を目指して入院される方が多いです。
Sさんのように自宅退院に向けて、他職種と多く連携を取らないと達成できない方もおられるので、そのための努力を怠る人、他職種とのコミュニケーションをとるのが苦手な人は難しいと思います。
想像力も必要です。特に独居だと、退院後は、とにかく何でも自分でしないといけない、もしくは誰かにしてもらわないといけません。
Tさんは大腿骨頚部骨折で入院された70代の女性です。元々パーキンソン病で動作の緩慢さや体幹の可動域制限がありましたが、一人暮らしをされていました。
Tさんは自宅退院希望です。ご家族は遠方におられるため、今後は介護サービスを利用し、自宅退院を進めていく予定でした。
今回の受傷で、全身の筋力低下はもちろん、動作の緩慢さや体幹の可動域制限が強くなってしまいました。歩くことも一人では難しい状態です。
どうしても自宅退院の希望が強いため、まずは排泄とベッドからポータブルトイレの移乗が自立するよう支援していました。
しかし、排泄の一連の動作が少しずつスムーズにいくようになった頃、問題となったのは布団をかける動作。
起き上がりが難しいのでギャッジアップを使用して寝起きするのですが、横になった後にうまく布団がかけられないのです。
ここは盲点で、カンファレンスを開き、ああでもないこうでもないとセラピストや病棟スタッフとも意見を出し合い、様々な方法を試みましたが、解決策が見つからず。
結局、四六時中誰かがそばにいる状況でないと生活するのは難しいという結論になり、自宅退院を叶えることができませんでした。
Tさんのように、ご本人やご家族のご要望に応えられないこともあります。
元々、介助量が多い方や独居の方の自宅退院を進める場合は、いろいろなことを想定して、先に解決策を考えておかないと、思わぬリスクに繋がる場合があります。
どんな患者さんでも「元気にしてあげたい!」「在宅・社会復帰させてあげたい!」という強い熱意を持つこと、目標を達成するために、想像をめぐらし、他職種とのコミュニケーションを取り、試行錯誤することが、回復期病棟で働く大変さだと思います。
まとめ
お話をまとめると、
まとめ
- チームで何かをする、成し遂げる、手を尽くすことで患者さん・ご家族の希望を叶えることができ、充実感や達成感が得られる経験をたくさん積めることは回復期病棟で働く大きな魅力!
- 回復期は自宅退院に向けて、他職種と多く連携を取らないと達成できない方もおられるので、そのための努力を怠る人、他職種とのコミュニケーションをとるのが苦手な人は難しいかも
回復期は自宅復帰に向けて積極的にリハビリを行う時期なので、「理学療法士として腕の見せ所」といったところでしょうか!
単にリハビリを提供するだけじゃなくて、自宅訪問を行うなど、退院後のことも考えないといけないんですね。
具体例もあって、回復期病棟っていうのがどんなところなのか、かなりイメージできたんじゃないでしょうか!
経験者の方に教えてもらえることって、なかなか無いので、ぜひ参考してください!
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